映画『#マンホール』の好きなところ全部書く

映画『#マンホール』のDVD/ Blu-rayが8月4日に発売されました。

同時にレンタルも始まっています。

#マンホール

#マンホール

  • 中島裕翔
Amazon

2023年12月13日追記:2023年12月10日より、Netflixでも配信開始されましたhttps://www.netflix.com/jp/title/81675328

 

これで望めば映画『#マンホール』がいつでも鑑賞できる状況が整いました。
こうなったらもうネタバレも何もありません。
この映画で暮らしの方向性が変わった人間として、好きなところを全部書いていこうと思います。「○○が好き」という書き方をしていなくても、この記事で触れてる部分は全部好きなところです。

 

もちろんネタバレもガンガンあるので、ネタバレなしで映画を楽しみたい方は、映画『#マンホール』を今すぐ見てください。
あるいは「内容をある程度把握してから映画に臨みたいけど、まともな情報を得たいよ」という方はこちらのインタビュー記事を見てください。中島裕翔さんご本人が映画の内容に触れつつお話しされています。

nantejapan.com


その上でこの記事に戻ってきて、私が何も嘘はついていないことを確かめてください。


あらすじと「ネタバレ厳禁」

そもそもどうしてこんなにネタバレを気にしているかというと、映画のプロモーションとして「ネタバレ厳禁」が掲げられていたからです。

結婚式前夜、幸せの絶頂から一転、マンホールに転落してしまった一人の男。梯子は壊れ、脚には深手を負い、地上に這い上がることができない。外部に助けを求められるツールはスマホのみ。持てる限りの知力を総動員してSNSを駆使し、絶体絶命の危機からなんとか脱出を試みるのだが、これは、単なる事故ではなかった・・・。(中略)2分に1度訪れるピンチの連続。タイムリミットは夜明けまで。そして待ち受ける驚愕の結末。
どうかあなたも“共犯者”として、衝撃のラストはご内密にお願いします。
(映画公式サイト「introduction」より)

gaga.ne.jp

 

あらすじからしてこう。
さまざまな取材が入る舞台挨拶でも、徹底して「ネタバレ厳禁」の念押しがされていました。
実際、映画の内容を語ろうとすると何もかもネタバレになるんですよ。主人公の川村(演・中島裕翔)がどんな性格の人物かってことを話すだけでもネタバレ。元カノとの会話の雰囲気ですらネタバレ。ていうか極論、川村の存在自体がネタバレみたいなものでぇ……。

そういうわけで、見てない人に何も言えない状況でのたうちまわる生活は非常に苦しかったです。苦しすぎてもともと会う予定だった友人を映画館に連れ込んだ。あと偶然鑑賞済みだったフォロワーにめちゃくちゃ絡んだ。その節はありがとうございました。

もちろん、映画レビューサイトなどではネタバレも含めて語られていたと思うのですが、私の言う「好きなところ」ってそういうちゃんとしたやつではないというか、ちゃんとしてなくはないと思うけどだいぶ個人的なまなざしが混ざっている自覚はあるので、円盤発売およびレンタル開始まではぼかしてぼかして生きてきました。そんな生活ともお別れかと思うと、何から語ればいいか分からないですね。ここからどんどん支離滅裂になります。よろしくお願いします。

 

営業成績No.1のデキる男(公式)

映画は、川村のために同僚らが用意したサプライズパーティーから始まります。
自分が勤める会社の社長令嬢と結婚するということで、エリートサラリーマンぶりは文句のつけようがありません。不動産会社勤務という設定だけあって、同僚も後輩もかなりのギラギラ具合です。そもそも結婚式前夜にサプライズパーティーすな。全員じゃなくても、お前らの中で式に出席する奴いるんじゃないの? それとも近い親族だけでこじんまりやるタイプ? エリートサラリーマンなのにその辺地味なんだフーン……。
この辺からもうちょっとだめ。なんていうか、何もかもがバッチバチに決めているのではなく、あえて隙を残す感じ? ぜったいエリートサラリーマンの好感度上昇テクニックじゃん。
サプライズが成功した後のスピーチでも、「結婚式前夜にこんな素敵な場を設けてくださって……いい迷惑です!(笑)」とかいうオチをちゃんとつけるんですよこの男は。はー、隙がない。作られた隙しかない。めちゃくちゃ仕事ができるということと、全部分かってやってるという性格のよろしくなさが一気に分かってキーッとなってしまう。
でもこのキーッとなる時点で、私ってもしかして川村くんのことが好……好…………クソッ

 

パーティーからの帰り道、酔っ払った川村くんはマンホールに落ちます。落ちないと話が始まらないのでサクッと落ちます。
地上へ続くはしごは折れてるし太ももにとんでもない裂傷できてるしで八方塞がり、満身創痍の状態で川村くんがもがくさまは、良く言えばバイタリティに溢れているし、悪く言えば無様。手が届かない位置のはしごに引っ掛けようとしてベルトを外すんだけど、そのしぐさは全然かっこよくない。ベルトを外す動作ってどうしてあんなに情けないんだろう。結局はしごにも届かないし。
ここから出ようと、さらにいろんな策を講じるわけですがなぜか全部空振り。運の悪さで顔の良さとのバランス取ってる?

 

それはそれとして、110番した警察に脱出できない焦りからブチギレる姿は最高。取り繕わなくていい相手にはかなり高圧的にキレるの、かなり性悪ポイントが高い。美しい男の性格が悪くて困ったことないですからね。
その上、警察のみならず、唯一電話のつながった元カノ・舞にもキレる。ド深夜、それも仕事終わりの元カノに己を捜索させ、見つからなかったと報告された瞬間に「本当に探したのか?」などとモラハラ全開で詰め寄るの本当にカスなんですが、次の瞬間にめちゃくちゃ甘い声で弱音を吐いてみせてくるので人類全部がほだされてしまうんですよね。やってることは最悪なのに、顔がよくてハイスペックで甘え上手だから抗えない。雨に降られてかじかんだ手指をカタカタ震わすさまも儚げで美しいし……何だろう、悪魔?

 

セロテープとホッチキスとマキロン

雨まで振り出し高そうなスーツはどんどん汚れていって、古い配管からは謎のガスがシューシュー吹き出ているものだからむせちゃって、川村はペンケースからちっちゃいセロテープを取り出してガス漏れ部分を塞ぐんですよ。ちっちゃいセロテープ。あの直径5センチくらいの、コンビニに売ってるやつ。それもしっかりセロテープカッターにセットされてんの。

そんなもん持ち歩くサラリーマンいるか??????

さらに川村くん、ちっちゃいセロテープだけじゃなくて、ホッチキスも持ってんの。10号針の。マックス製だからマジでホッチキス(ホッチキスはマックス社の商品名です)。セロテープはちっちゃいのにホッチキスは普通のでっかいやつ。今どきペンケースに入れやすい小さいホッチキスも売ってるのに一番スタンダードな金属丸出しのホッチキスを持ち歩いてる。ほかにも蛍光ペンやら何やらでペンケースがパンパン。美術部所属の女子中学生くらいでしょそんなことになってるの。
不動産会社で何売ってるのか知らないけど、ペンケースがこんなに膨らんでる営業マン見たことないよ。デスクに置いてあるならともかく、毎日毎日ちっちゃいセロテープとでっかいホッチキスを持って出勤してお客さんに会ってってしてるわけ? お客さんが資料バラバラーって散らかしてしまったときにサッとホッチキスを出したり? 勢い余って図面を破いてしまったときに笑顔でセロテープ使って修復したり? それで取引先の人から「普段からこんなものまで用意してるんですか(笑)」って驚かれたりしてんの? 腹立つ〜〜〜〜〜〜〜〜
何でこんなに嫌なのかわかんないけど、とにかくそのぬかりのなさが嫌。仕事が出来すぎ。ありえない。さすがにこれは嘘。こんな完全無欠パーフェクト男(目黒区碑文谷在住)にムカつかない奴いないだろ。だって絶対に世間のことを馬鹿にしてるもん。そうじゃなかったら聖人になっちゃうから性格だけは最悪であれと祈るレベル。

しかし完全無欠パーフェクト男(目黒区碑文谷在住)でも出血には勝てません。
ここで傷が大写しになるのですが、裂けた肉から血が溢れる様子がかなりリアルでよかったです。痛いシーンが苦手な人はかなりきついかも。映画館でも顔を覆っている人を結構見かけた。
また血で張り付いたスラックスの生地をめくる芝居がいいんですよ。指先が震えてて、触れるだけ、布を動かすだけでも痛いんだろうなっていうのが伝わってくる。美しい男が傷ついて血まみれになり顔を歪めている姿って栄養がたくさんある。
とはいえ放っておくと壊死してしまうかもという看護師である舞のアドバイスで、太ももの傷を応急処置することに。

ここでさっきのホッチキスが大活躍! 持っててよかったホッチキス! 傷口を合わせてバチンと留めるたびに川村くん大絶叫! ありがとうございます! マジで心の中で手ェ叩いて喜びました!

悲鳴のバリエーションも多彩で、痛みに悶え、すすり泣き、最終的にあまりのつらさにおかしくなって笑い始めるところまで行く。ホッチキスのバチンバチンもスピードアップして狂気に磨きがかかります。
痛すぎて「子どもの頃、怪我をして帰っても手当してくれる人が誰もいなくて、自分で泣きながらマキロン塗ってたんだ」と聞いてもいない思い出話まで明かしてくれる川村くん。完全無欠パーフェクト男(目黒区碑文谷在住)にも寂しい過去があったのかよ。そういう根暗な部分を見せられると好きになっちゃうからやめてくれよ。ていうかマキロンて。がっつり商品名じゃん。ドキドキするわ。
これは私の個人的な好みですが個人の思い出に出てくる商品名ってよくないですか? 手触りがより具体的になるというか、薬だの絆創膏の箱だのがごちゃごちゃしてる救急箱の中で、あの白と青のパッケージがパッと浮かび上がる感じ。蓋を開けたときのツンとする匂いとか。だって普通に言ってたもんね「マキロンやっときな」とかって。そういう、ものすごく些細な、日常の記憶が川村くんの「マキロン」の一言でブワーッっと呼び起こされるのがめちゃくちゃ好きな感覚でした。映画なんだけど、自分の生活と急に地続きになるというか。

 

処置を終え、疲れ果てて倒れた額に浮かぶ脂汗の美しさったらないよ。線香花火は消える直前がもっとも綺麗ってこういうことなんだろうね。夜の青さに照らされた鼻梁とまつ毛が素晴らしい。呆然としてるさまがどうしてあんなに似合うんだろう。私の好きな人間みんなそんな感じ。棒立ちの才能がある。あとまつ毛。まつげたべほうだい。

セルフ治療で心身ともにズタボロになったはずなのに、川村くんはうっすら微笑みながら「今度からは麻酔も持ち歩くことにするよ」と電話の向こうの舞に冗談をぶっ飛ばします。だから何なんだよその余裕は。自分の足にホッチキス連打したあとに出していい声じゃないだろ。エリートサラリーマンって場所不明のマンホールに落ちても小粋なトークで相手を楽しませないといけないんですか? 転職しろもう。

 

ヤバい奴・川村くん

依然として以前として自分の居場所が分からない川村くんは、Twitterのような SNSを駆使して脱出を試みます。
バズり狙いで「マンホール女」というアカウントを作り、アイコンは拾った女性アイドルの写真をちょっと加工するところまで一息で行うのが本当に嫌。日常的にネカマをやっていたとしか思えない手つき。
スマホぶん投げて撮ったマンホール外のムービーを載せ、情報収集目的で「川村俊介の妹」であることを明かし、「兄の女性トラブルに巻き込まれてマンホールに落とされた」という悲劇のストーリーでおバズりになる様子は悪いインターネットそのものです。バズったもんだから同僚やら後輩やらから川村くんへの妬み嫉み噂話が爆速で集まってくる。川村くん、50人切りとか言われてるよ。出てくる女の名前についていちいち「誰だっけな」みたいな顔で首ひねるの、有象無象の女たちと関係を持ってた仕草すぎて最悪だよ。どの名前には覚えがあるのかだけでいいから教えてもらっていい?

何なら「情報お待ちしてます」を最初「情報お待ちしてまふ」と誤入力するところまであざといもんな。そこから爆速で修正するの、演出なのかリアルな入力ミスをそのまま使ったのか分からないけどすげ〜〜〜人間っぽい。パーフェクトのくせに人間味出してくるのずるいって。

 

匿名アカウントからのタレコミに流されて川村くんもどんどん人相が悪くなり、最終的に犯人候補にされた同期・加瀬に対して「お前が犯人なんだろ」と怒鳴る始末。
せっかく元カノ以外と電話が繋がったのに、犯人かどうかの押し問答しかできなくなってるの愚かしいにも程があるだろ。妹なんていないことまで知ってるレベルで仲がよかったっぽい人にあのスピードで憎しみを向けられるの怖いよ。そもそもインターネットが言ってたからお前が犯人ってリアルで絶対口にしたくないやつじゃん。素直か。
この豹変ぶりに同期も元カノもドン引きで、見てるこっちも「川村くん、恋人にモラハラ気味だけなんじゃなくて全方位にヤバい奴か……?」みたいな気持ちが芽生えてくる。
でも深淵のプリンスを名乗るユーザーが同期をガチで襲撃してしまい時すでに遅し。同期血まみれ。インターネット大加速。登場人物全員Wi-Fi切って寝てくれ頼むから。

 

それから何だかんだあって、インターネット探偵団がマンホールの位置と思われる場所を特定してくれます。この「何だかんだ」の中で、撮影のために投げたスマホが壁の隙間に引っかかってめちゃくちゃ焦る激カワ川村くんとかも含まれます。だいぶ序盤の話を今しました。半年反芻した影響で記憶が混濁してる。マジで全カットが萌え萌えだから絵コンテ集を発売してもらって全コマに付箋でコメント書いていくとかしないとこの記事終わらないかも。

ろくでもねえストリーマーみたいな男が生配信しながら助けに来てくれるのをスマホでハラハラ眺める川村くんも無力でかわいいしさあ。配信見ながら「ここだー!」って応答するのクッソダサい。でも顔のいい男のダサい姿って萌え萌えなんだよな。
気づけばマンホール内は有毒な泡が満ちてきて、沈むまでに脱出できなければ一貫の終わりという状況になるわけですが、ストリーマーが探索にきた場所に川村くんの姿はありません。哀れ、川村くんは有毒バブルに飲み込まれてしまいます……が、これを爆破します。
爆破です。みんな好きでしょ爆破。映画『#マンホール』見て。
爆破に至るまでの動きを水中(泡中?)カメラで撮っているんですが、目薬のCMかよってくらいの勢いで眼球をカッッッッと見開く川村くんが最高なんすよ。全然かっこよくないシーンなのにめちゃくちゃキメ顔でカッッッッってしてますからね。泡でぼやけているので分かりにくいんですが気づくと川村くんと目が合う。ここ本当に好き。でっかい水槽に入って撮ったというオーディオコメンタリー情報含めて大好き。

 

どうにか難を逃れた川村くん、ホッとしたのか、一晩振り回した舞に謝罪と感謝を述べるのですが、そのときの声の甘さが最低で最悪で最高の芝居。別れた当時の話になって、現在の婚約者である社長令嬢との二股を疑われるんだけどそこでの言い訳の仕方が、演じる中島裕翔さん本人がコメンタリーで「ほんとかよ笑」って言うレベル。よくもまあ自分の顔に向かってその声が出せるものよ。

でも確かに「ほんとかよ笑」の芝居なんすよね。もう絶対嘘って分かるんだけど、すでに別れてるし何か言い方が可愛いしまあいっかぁ……ってなってしまうわけ。こんなん川村くんの思う壺だよ。よくない。よくないよ。絆されてるよーーーーーーハア……ってなってる状態で、血まみれ泥まみれ汗まみれのズタボロ川村くんが「ずっと謝ろうと思ってたんだ」って疲れたくしゃくしゃの笑顔で言うのマジで頭おかしくなる。舞もドキッとしちゃってるじゃん。「話せてよかった。。。」とか小声で呻いてるもん。だめだよこいつはモラハラカス野郎なんだって……。冷静に考えて、真っ当な人間は女に語りかけるときにあんな甘い声出すわけないんだよ、あんなの芝居だよ、でも川村くんは完全無欠パーフェクト男(目黒区碑文谷在住)だから女を口説くときもパーフェクトなのかもしれない……? えっじゃあこの脳みそを溶かしにきてる甘い声にも抗わなくていいってこと……? 完全無欠パーフェクト男(目黒区碑文谷在住)が優しくしてくれるのをただひたすら享受していい……? でも私たちのことってもう過去の話だし川村くんは明日別の人と結婚するんでしょ……っていうギリギリのラインをゴリッゴリに攻めてくる甘さです。およそ人類から出るものではない。シンプル恐怖。どっから出てんのか真面目に教えてほしい。

 

さっきの爆破によってマンホールの底からミイラ化遺体が出てきて、そんなところに突き落とされるって一体お前は誰にどれほど恨まれてるんだよ……顔が怖いよ川村くん……

ここで川村くんの回想が出てくるのですが、過去の川村くんがまた萌え萌えでひっくり返る。だってゴミ処理場でのアルバイトを就職を機に辞めるのを、餞別とともに和やかに送り出される好青年ですよ。古いアパートながら清潔に保ち、亡くなった母の遺影に手を合わせるのは間違いなくいい人の姿。ケーブル編みの白ニット着てる身長180cmの容姿端麗な男に悪人なんていない。あなた本当にあの川村くん?
そこに男が尋ねてきて、「ひょっとして吉田くん?」と思い出した瞬間に吉田が川村くんをグサー!!!!
結構な回数グサグサされるたび、川村くんの四肢だけがビクビク跳ねるのがめちゃくちゃいい。死にかけの魚みたい。コメンタリーで「ポップダンスのような動きを意識した」と中島裕翔さんが語っているのがなおいい。こういうところで唐突に活きるダンス経験はアイドルの醍醐味。

 

川村(真)、川村(偽)

実は川村くんは川村くんではなく、本当の川村俊介を殺害して人生を乗っ取った吉田でした。
やたら鏡やスマホで自分の顔を見るカットがあるのはそういうことか〜。演出技法とかまったく詳しくないけど、気づくと気持ちいい瞬間ってあるよね。

死んだ川村(真)に成り変わるべく、吉田は整形手術を受けに闇の手術室を訪れるのですが、ここで資料として提供される川村(真)の写真でタバコくわえてるやつがあって大興奮したよね。川村(真)くんってタバコ吸うんだ。真面目そうなイメージだったからちょっと意外。あっイヤとかじゃないよ、でもさまになりすぎてて見てると何か照れるかも……やだ、笑わないでよ! 変なこと言った自覚はあるから!(川村(真)との大学時代の思い出です)
ハーアア勘弁してくれよ、ここでマキロン語り後の横たわった姿がスーパーアンニュイで最高だった意味が判明すると思わないじゃん。この作品において、どこが吉田の本音で何が演技かというのはたぶん一生明かされないと思うんだけど、あの場面で語ったエピソードはおそらく吉田自身の実体験だろうということが察せられるの脳が焼き切れちまうよ。「己の欲望のためにあらゆる悪徳を尽くせるが結局なにひとつ満たされることなく孤独のみを抱えて過ごさなければならない男」を嫌いなオタクなんていないだろ。そんな大人のお子様ランチみたいな存在を99分しかない映画で濃縮還元してオタクに突っ込むの間違いなく暴力。あらゆる物質には致死量があるっていうじゃん。どう考えても用法容量守られてないよこの吉田はさ……

 

この時点でかなり最悪なんですけど、吉田は神経が樹齢100年の丸太くらいあるのでこの期に及んでもまだ状況をコントロールしようとします。
誰にも知られていないはずの遺体を埋めた穴に落とされたことで、犯人が川村(真)の恋人であることも確信し、インターネットを焚き付けます。まんまと食いつくインターネット。吉田も別垢を作成して燃料投下。やり口が細かい。別垢もネカマなの本当にいや。吉田ってそういうとこあるよな。
熊切監督、「自分はSNSに詳しくない」って言ってたけどそれでこのリアルさってそんなことあります?もうずっとインターネットが最悪だよ。

 

アップロードした動画から電車の運行状況も割り出され、いよいよ本当の居場所がバレてしまいました。
大バズしたことで警察もまともに取り合ってくれて、もう大変。今の状況だと警察くる→遺体が見つかる→逮捕の流れになってしまうから吉田大パニック。

そんな中、魔性の声音で転がし続けた舞が、いよいよ助けに来てくれます。舞は吉田の事情を知らないので吉田大チャンス。暗く狭いマンホールに垂らされたロープはまさに蜘蛛の糸。細いロープをよじ登り、吉田の顔にも朝日が差し込みます。ああこれで逃げおおせる、結婚式も何とかなる。安堵した表情の吉田がようやく辿り着いた地上で見たものは、この事態を画策した犯人・菜津美(演・黒木華)の姿でした。

 

すべては菜津美の計画通りで、なんと電話で話していた舞すら菜津美が演じていたと知り、腰を抜かす吉田。医療用メスを構えて攻撃してくる菜津美。超スピードで嘘と言い訳を繰り出す吉田。

 

菜津美「クラスで流行ってたカードが盗まれたの覚えてる? あのとき先生言ってたよね、盗んだものはちゃんと持ち主に返しましょうって」

 

盗んだもの(川村(真))!!!!!!!!!

怖!!!!!!!!!!!!!

 

当たり前に憎しみ全開の菜津美。ロングコートにブーツで武装した黒木華に誰が勝てるんだよ。無理だよ。終わりです。
さすがの吉田もそれは理解できるらしく、とうとう「警察に通報していいから、その前に今度生まれてくる赤ん坊を抱き締めたい」とか言い出す。
デキ婚だったの!??!?!?! 社長令嬢と!??!?!??!
破天荒すぎる追加情報だけど、吉田の命乞いとしてこれ以上のものはないなとも思う。吉田は吉田自身に一切の価値を感じてなくて、川村(偽)になることで満たされようとしていたわけだけど、最後にすがるのが取り替えようのない吉田の遺伝子情報を持った「子」なんだなあとか考えちゃった……。もはや吉田に残った吉田の部分ってそれくらいしかないんだよな。他人を手にかけるほど自分ではない誰かを羨んでいたのに、それでも最後にはやっぱり自分の存在を大切にしてしまうの、吉田が自覚しているとしたらきっと苦しい数年間だっただろうし、自覚していないなら川村(偽)をやる限りずっと吉田は満たされない。吉田の子どもが健やかに育てば多少変わるのだろうか。でも子どもが見るのは川村(偽)をやっている父親だから結局だめな気がする。詰んだ。解決策がない。
我々も川村(真)というマジもんの『光』を知っちゃったので、吉田の影がどんどんどんどん濃くなる。川村(真)は間違いなくいい奴なんですよ。「本当の俺のことなんて、覚えてないよな」とかひねくれてる吉田をちゃんと思い出してくれたわけだから。それなのにノータイムでブッ刺す吉田。人の話を聞け。そら菜津美に恨まれもするわ。『光』を奪うとろくなことにならないって各種神話も言ってるじゃん。全部吉田の自業自得……。

 

この男がそんなに好きか?

でもやっぱり川村俊介のビジュアルってすごくて、まだ見ぬ子どもに会うまでは死にたくないと涙する姿に奈津美もちょっと同情しちゃうんですよね。性格終わってると思ってた相手がいきなり人間味見せてくるのはずるいよ。雨の日に子犬拾う不良のやつだもん。それに菜津美は、理不尽に殺された恋人の復讐で動く真っ当な感情の持ち主ですからね。「子どもに会いたい」というごく自然な命乞いを理解できてしまうのは仕方のないことだと思います。
吉田に背を向ける菜津美。吉田の求める猶予を与えることにしたのか、それとも復讐自体を放棄したのか、とにかくさっきまでの憎しみからトーンダウンしている。犯した罪を自覚させ恐怖を味わせ、あとは自責の念とともに生きていきなさいルートに入ったっぽい雰囲気がめちゃ出ている。

たださあ、吉田は性格が終わってんのよ。

背後から飛びかかり、ネクタイを菜津美の首にひっかける吉田。そのまま荷物のように背負い、ギャンギャンに首を絞め上げる最低野郎。さっきまでの寂しく切ないムードに何も感じなかったのかお前は。
その上「この男がそんなに好きか? 死ぬ前にたっぷり見られてよかったな!」と笑うんだからもう何もかもだめ。
すげー当たり前のこと言うじゃん。それはそうじゃん。川村(真)と同じ容姿なんだからそりゃ菜津美は好きに決まってるじゃん!!!!!
そういうことは分かるのに何で人間関係の機微は分かんねえんだよ。ここで見逃してもらって奈津美に怯える人生を過ごすことで、川村(偽)から吉田としての自我取り戻すルートもあったかもしれないんだぞ。それをお前は、お前はー!!!!!

でも私、この台詞が作中で一番好きなんですよ。「この男」って言い回しがさあ、さっきの子ども問題と同じく、吉田にとって今の自分の姿は全然自分のものじゃないんだなって感じてしまって悲しくなる。その容姿に成り代わって就職して営業成績トップになって社長令嬢と結婚するところまで辿り着いても「この男」なんだね。いつまで経っても川村になれない吉田。それは当然のことなんだけど、それじゃあ何をどうしたら吉田は飢えを満たせるのかっていうね。飢えっぱなしの人生はつらいよ。もちろんそのために他者を傷つけていいわけは絶対にないけど、何の導きもないままどうにか頑張って自己解決してくださいってのも言われる側としてはきつい。道理が分かるから頷くしかないところも含めて。

 

あとこれは私の個人的な体験ですけど、「この男がそんなに好きか?」と言う役を中島裕翔さんが演じていることで、凄みの種類が一段階増えているんですよね。
そもそも好きな男から言われたすぎませんか?「この男がそんなに好きか?」って。好きだよ。めっちゃ好き。好きだからこの映画見てる。
私は好きなアイドルに蹂躙されたいタイプのオタクなので、圧倒的な高みから語りかけられると嬉しくなっちゃうんですよね。アイドルって彼らの仕事なので、映画やドラマに限らず、バラエティー番組であってもそこにあるのは戦略的に作り上げられた姿じゃないですか。そういった人の姿で「この男がそんなに好きか?」って言われると、こちらの受け取り方はもはや意識調査アンケートなんですよね。改めて目の前の男について考える機会が発生するというか。
改めて考えるとね、もっと好きになっちゃうんだなあ。
一人で静かにTwitterに感想投げてると好きが増幅されて頭がおかしくなりそうになった経験、みなさんもあるでしょう。この角度から見る鼻筋が好きとか、ここの声色が初めて聞いたとか、暗いところで光る白目の迫力とか、映画『#マンホール』だけでもこんなにたくさんある。
好きな男から「そんなに好きか?」と問い詰められるの、やっぱりなかなかできる体験ではない。ありがとうございます。
役柄と俳優の境界線を、意図的に曖昧にしている自覚はあるんですが、それでもそういう体験になっているのは事実なので、自分の記録として書いておきます。この自覚を失ったら本格的に終わりなので、そのときは皆さんが私にとどめを刺してください。


深淵

そんなわけでバチボコに調子に乗って菜津美までどうにかしようとする吉田ですけれども、頬をボウガンでブチ抜かれて再びマンホールに落下します。ボウガンでブチ抜かれた姿ってこの先見る機会ないと思う。ありがとうございます。
ボウガンをぶっ放したのは無実の同僚を血祭りに上げた深淵のプリンス。相変わらず行動力がすごい。他のところで活かせないか?
まあプリンスからすればね、ネットで見ていたのは「マンホール女」ですから、助けに行った先で男女が揉み合ってたらそりゃ女の方を助けるよね。ネカマなんてやってたせいで自滅するというインターネットあるあるに令和で再開するとは思わなかった。
マンホールにおかえりしてきた吉田は腕や脚が変な方向に曲がってて最高。なんか声も血でゴボゴボしてるし。川村(真)が刺されてビクンビクンしているところもそうなんだけど、こういう「人体としてあってはならないかたち」を表現されるのにめちゃくちゃ弱い。今後もお待ちしています。

 

一応自分が「マンホール女」だと主張するけど当然信じてもらえなくて、「君は誰だ?」と問われる吉田。
ここの返事が超よくて、「俺は……」で言葉を詰まらせるんですよ。俺が誰なのか言えないの。吉田には自分というものがない。主体性とかそういう曖昧なものではなく、マジで自分が何者なのか答えがないんでしょうね。菜津美への命乞いの中で言う「本当の俺のことなんて、覚えてないよな」としっかり対応していてめちゃくちゃよかった。
何なら深淵のプリンスも吉田の鏡写しみたいなもんですからね。深淵のプリンス、見た目から察するに中学生か下手したら小学校高学年なんですよ(コメンタリーで「設定上は中学生」という補足がありました)。そんな子どもが深夜にフラフラ出歩けるのってほぼ間違いなくネグレクトで、怪我して帰っても自分でマキロン塗るしかなかった吉田と近い境遇だし、吉田がカード盗んだけど犯人として疑われることさえなかったと嘆いた出来事も小学校時代の話だし。プリンス、すべての会話をSNS越しでしかしなくて声を発さないんですけど、その極端な没交渉ぶりも影の薄さと言えるだろうし、ここまで来ると「深淵」って「深淵(と書いてマンホールと読む)」ってことか!?まで考えちゃう。勝手な連想ゲームかもしれないけど、こういうこと考えられるのがすでに気持ちいいよ〜〜〜〜〜

とにかく吉田の「誰でもなさ」を最後まで維持していて、そのあたりがすっきり解決することなく終わるのがとても好きです。他人から忘れられていて,自分でも分からなくて、吉田を認識しているのは自分が殺してしまった男と自分を殺そうとする女だけという……。

 

吉田を残したままマンホールの蓋が閉められてエンドロールが流れるんですが、ここで聞こえる口笛が「上を向いて歩こう」なのめちゃくちゃ最悪。映画の途中でも吉田が同じ曲を口ずさんでて、選曲したのが中島裕翔さんだとコメンタリーで明かされているんですが、熊切監督がドン引きしててウケる。そりゃそうだよ。落ちる映画で「上を向いて歩こう」って悪趣味レベルが100じゃん。何をポジティブになってんだよ。人が死んでるんですけど!!!!
でもその最悪ポジティブが吉田だよな……この99分で分からされてしまった……。
加えて最後の最後で謎の鈍い音がして、吉田まだ生きてる!!!!!という恐怖が味わえる。あいつまだどうにかなる気でいる。まあ警察来るはずだし命は助かる可能性あるか。でも川村(真)の死体も見つかっちゃうよね。いや吉田だし何か上手いこと言うくらいのことはしそう……

 

この鈍い音が一体何なのかは明かされないので、吉田が生きてるかどうかは分かりません。
実際、先日公開された中島裕翔さんのインタビューでは、インタビュアーが「どうしようもなくなった吉田が自ら死を選んで頭を打ちつけたんだと思った」という解釈をしていました。

I was thinking that he’s down there, and that he’s given up and realized there is no way out, so he’s bashed his head against a rock to kill himself. 

nantejapan.com

この辺の自由度も面白いよね。他の感じ方をした人も絶対いると思うからいろいろ聞いてみたい。まあ私は「あの吉田が自分から死ぬとか絶対ない」派なんですけど。

 

とか言ってたら同記事で中島裕翔さんご本人がそんなこと言っててひっくり返った。解釈一致ありがとうございます……ここまで含めて最高の映画体験だよ……

 

当時の感想まとめ

ここから先は映画鑑賞当時の感想一覧です。この記事とだいたい同じことを言っていて統一感がありますね。

①2023年2月11日

 

②2023年2月25日

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③2023年3月2日

 

④2023年3月26日